津家庭裁判所四日市支部 昭和52年(少イ)6号 判決 1978年6月28日
主文
本件のうち、売春防止法違反の点は管轄違。
理由
一 公訴事実
本件の公訴事実は次のとおりである。
「被告人は
第一 昭和五一年八月初めころ、四日市市○○町×番×号○○○○前路上において、A子(昭和三五年一月三日生)が満一八歳に満たないことを知りながら、同女に対し、Bを売春の相手方として紹介し、よつて同女をして同日、三重県三重郡○○町○○○×××番地「モーテル○○」において、同人を相手に売淫させ、もつて売春の周旋をするとともに、一八歳未満の児童に淫行させ
第二 前同月末ころ、同市○○町××番×号「喫茶○○○」において、前同女が満一八歳に満たないことを知りながら、同女に対してCを売春の相手方として紹介し、よつて同女をして同日、同市○○×丁目×番××号「ホテル○」において、同人を相手に売淫させ、もつて売春の周旋をするとともに、一八歳未満の児童に淫行させたものである。」
二 被告人の当公判廷における供述ならびに司法警察員(二通)および検察官に対する各供述調書、証人A子、同Bの当公判廷における各供述、Cの司法警察員に対する供述調書、司法警察員作成の捜査報告書を総合すると次の事実が認められる。
被告人は、昭和五〇年一二月ころから四日市市○○町所在の喫茶店「○△○」および同店二階の麻雀店「○」に、毎日のように出入りするようになり、右喫茶店「○△○」の経営者であるBと心易くなつたほか、同喫茶店に出入りする女子高校生などとも顔見知りになつたりしていたこと、昭和五二年八月初め頃ふとしたことから、高校中退のD子を知るようになり、次いで同女を通じ、その友人であるA子を知るようになつたこと、被告人がA子を知つた際、同女が男性と性交渉を持つて金を貰う、いわゆる売春をしている者であることを、右D子やA子の口から直接聞いていたこと、又その際被告人はA子からお金のある男の人がいたら世話してほしい旨依頼されたこと、その後間もなく被告人は、前記Bに右A子の話をしたことから、同人はその話に興味を示して被告人にA子を紹介してほしいと依頼したので、被告人はそのころ右BをA子に紹介して引き合せ、その結果右両名は三重県三重郡○○町○○○×××番地「モーテル○○」において肉体関係を持ち、BはA子に二万円の売春料を支払つたこと、同月下旬ころ、当時Cは妻と離婚し男手で子供一人を養育していたことから、かねて被告人に嫁の世話を依頼していたのであるが、前記喫茶店「○△○」において被告人に嫁の心当りを尋ねたところ、被告人において「若い子やで結婚は無理やが遊ぶだけならいいだろうからまあ一度会つてみるやわ」と返事し、そのころ右CにA子を紹介して引き合せ、その結果右両名は四日市市○○×丁目×番××号「ホテル○」において肉体関係を持ち、CはA子に三万円の売春料を支払つたこと、被告人とA子との間では性交渉を持つたことは一度もなく、又被告人がA子から金銭的利得やその他経済的、物質的な利益は一切得ておらないこと。
以上の事実が認められる。
三 ところで売春防止法六条一項に規定される「売春の周旋」とは、「売春をする者と、その相手方となる者との間で売春行為が行われるよう仲介する一切の行為」と解するのが相当であるところ、右認定のように被告人がA子をB、Cに紹介し引き合せた行為は、いずれも売春の周旋に該当することは、右認定の事実から明白であつて、被告人がA子から何らの利得を得ていないとしてもその結論に消長を来すものではない。被告人は当公判廷で、「BやCを売春の相手方としてA子に紹介したのではなく、お茶飲み友達として紹介したのであり、A子がBやCを相手に売淫したことは知らないし、売春の周旋をしたことはない。」旨弁解し、被告人の当公判廷における供述の一部に、右弁解に副う供述部分もあるが、該供部分はその余の前掲各証拠と対比して措信できないし、前叙認定の事実に徴すれば、右被告人の弁解は到底採用できないところである。
四 次に、児童福祉法三四条一項六号に規定の「児童に淫行させる行為」とは、児童に淫行を強制し、または勧誘する場合のみならず、児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し、促進する行為をも包含する(最高裁判所昭和四〇年四月三〇日、第二小法廷判決参照)と解すべきところ、これを本件について見るに、なるほど被告人は前記認定のように売春をする者である児童のA子と、その相手方となる者であるBやCとの間で売春行為が行われるよう仲介して売春の周旋をなしたものではあるが、被告人がA子に淫行を強制したり又は勧誘した事実はもとより、A子に対する事実上の影響力を及ぼしてA子が淫行をなすことを助長したり促進したりする行為をなした事実は、これを認めるに足る証拠はない。即ち前記認定のように被告人がはじめてA子と知り合つた際、A子の方から売春の相手方を紹介してほしい旨依頼されているところであるし、又被告人とA子とは性的交渉はなく、被告人はA子から一切の金銭的、物質的な利得も得ておらず、被告人がA子に対し事実上の影響力を及ぼし得るような地位、立場にいなかつたことはまことに明白である。従つて本件のうち児童福祉法違反の各公訴事実については刑事訴訟法三三六条に規定の、被告事件について犯罪の証明がないときに該当するので無罪の言渡をしなければならないところ、本件のうち売春防止法違反の各公訴事実と、刑法五四条一項前段のいわゆる観念的競合の関係に立つものと解されるので、児童福祉法違反の点については特に主文で無罪の言渡をしない。
五 ところで児童福祉法三四条一項六号違反の罪と、売春防止法六条一項違反の罪とがいわゆる観念的競合の関係に立つこと前記のとおりであるところ、本件は刑法五四条一項前段、一〇条により前者の刑をもつて処断すべきものとして家庭裁判所に起訴された場合であるが、前記のように前者たる児童福祉法違反の罪が無罪であるときは、後者である売春防止法違反の罪についての家庭裁判所の併合管轄権の基礎が失われたものと解すべく、家庭裁判所は後者につき実体的判決をなし得ず、刑事訴訟法三二九条に則り管轄違の言渡をするのが相当である。
以上の理由により主文のとおり判決する。